大判例

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大阪高等裁判所 平成11年(行コ)2号 判決

控訴人

兵庫県職員労働組合県庁支部

右代表者支部長

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

野田底吾

豊川義明

西田雅年

城塚健之

被控訴人

兵庫県地方労働委員会

右代表者会長

本田多賀雄

右指定代理人

三島英嗣

被控訴人補助参加人

財団法人二一世紀ひょうご創造協会

右代表者理事

計盛哲夫

右訴訟代理人弁護士

俵正市

寺内則雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、兵庫県地労委平成五年(不)第一一号不当労働行為救済申立事件について、平成八年一月三〇日付けでした申立却下決定を取り消す。

3  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  答弁

主文同旨

第二事案の概要

一  事案の概要は次項(二項)に当審における当事者の主張を掲げ、また、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(三頁五行目から一五頁七行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。(ただし、文中「原告」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と各読み替える。)

1  三頁一〇行目の「兵庫県庁職員」を「兵庫県の本庁職員」と訂正する。

2  四頁八行目の「平成四年六月」を「平成四年一二月」と訂正する。

3  六頁七行目の「第九条」を「第一〇条」と訂正する。

4  七頁四行目の「本件派遣職員を除く」を「本件派遣職員を含む」と、同七行目の「平成四年九月一日」を「平成五年九月一日」と各訂正する。

5  八頁四行目の「取消」を「取消し」と訂正する。

6  一三頁二行目の「県庁」の次に「の本庁」を付加する。

7  一五頁二行目の「補助参加人に対して」を「補助参加人との」と訂正する。

二  当審における当事者の主張

1  控訴人の主張

(一)(1) 法は、地方公務員について団体協約締結権及び争議権を否定しているが、団結権及び団体交渉権は保障している。そうすると、職員団体は憲法二八条に基づいて認められた労働組合といえる。ただ、この団体は、地方公共団体を使用者とする関係で地方公務員法五二条以下の適用を受けるにすぎず、地方公務員法五二条によってはじめて労働組合として認められるものではない。職員団体は憲法二八条が予定する団結体であり、地方公務員法五二条はこのことを確認的に謳ったものに過ぎない。したがって、職員団体は第三者との団体交渉をすることを、合理的な理由により特別に明文で禁止されている場合以外は、憲法二八条に基づき、労働組合としての活動は当然に保障されているのであって、そもそも地方公務員法上の問題は生じない。

(2) 本件での問題は、職員団体たる控訴人が民間法人たる被控訴人補助参加人に対して、団体交渉権を有するか否かであり、この点について地方公務員法の適用はない。地方公務員法は地方公務員と地方公共団体との関係を規律する法律であり、地方公務員と民間団体の間を規律する法律ではない。控訴人という団体が憲法二八条にいう勤労者たる地方公務員により組織された労働組合たる実質を有する以上、民間法人たる被控訴人補助参加人を相手とする限度で控訴人は憲法二八条を具体化した不当労働行為制度を利用できるのである。そして、控訴人は労働組合法二条、五条二項各号の要件を全て具備しているのであるから、不当労働行為制度上の申立適格を有する労働組合に該当する。

(二) 地方公務員法上の職員団体は地方公務員法五二条を根拠とし、明文の規程もなく第三者と団体交渉することができないすると、労働組合法六条による他の労働者・労働組合から団体交渉の委任を受ける資格も、また、委任する資格をも失うことになり、このように解することは地方公務員法による制限以外に地方公務員自体の団結権・団体交渉権さえ大幅な制限を受けることになってしまい、憲法・地方公務員法・労働組合法の解釈を誤っているといえる。

(三) 労働者がいかなる形態の労働組合を結成し加入するかは労働者の団結権の自由の問題であり、被控訴人補助参加人への派遣職員は人数が多く組合結成が困難であるとはいえないから混合組合の理論を適用する必要性を欠くといった必要性の観点から法的効果が左右されるべき問題ではない。派遣職員の多少により法的効果が異なるという理論は法的安定性に乏しく、法理論的には成り立ち得ない。

(四) 本件派遣職員が勤務時間及び時間外勤務手当の各事項につき、被控訴人補助参加人との関係で労働組合法上の労働者に該当し、右事項に関しては団体交渉を行うことができるという結論は、三六協定の締結交渉については控訴人が被控訴人補助参加人と団体交渉できないという結論と矛盾することになる。

2  控訴人の右主張に対する被控訴人及び補助参加人の反論

(一)(1) 憲法二八条にいう勤労者の団結する権利をどのような形で保障するかは、具体的には法律の規定に委ねられており、一般の労働者には労働組合、一般職の地方公務員には職員団体の各結成が保障されている。そして、地方公務員の職員団体がなす交渉は地方公務員法五五条の定める範囲でしか行うことができず、同条二項により労働協約締結権がないこと及び同法五八条一項により労働組合法が適用されず、したがって、不当労働行為救済制度の適用を受けないところから、職員団体には団体交渉権がないという結論が導かれる。本件で問題となっているのは、控訴人が労働組合法上の労働組合か否かであり、控訴人の憲法上の労働団体の該当性ではない。

(2) 控訴人が労働組合法上の労働組合としての実質を有しているからといって、直ちに不当労働行為の救済制度を利用できるものでないことは、労働組合法五条一項により明らかである。前記の実質論を根拠にして労働組合法上の適用があるとするのは、憲法二八条の勤労者の団結する権利をどのような形で保障するかという点につき右(1)に述べたとおり個別に団体交渉権等の定めをしていること自体を無視することになる。

(二) 本件で問題となっているのは、控訴人が固有の権限として労働組合法上の団体交渉を行うことができるか否かであり、控訴人が労働組合法六条による団体交渉の委任を受けうる資格があるか否かではない。

(三) 職員団体たる控訴人につき、労働組合法上の労働組合性を論定するについては、派遣職員の多少により決するものではない。控訴人につき労働組合法上の労働組合性を肯定する実質的必要性があるか否かの問題とは別物である。地方公務員法は、管理職等との混合団体を職員団体と認めず(同法五二条三項)、当局が交渉応諾義務を負うのは登録職員団体のみとし、(ママ)(同法五五条一項)、登録職員団体となるためには警察・消防職員以外の職員のみで構成されていること(同法五三条四項)等、交渉応諾義務を負う職員団体を厳格に制限していることも考慮すべきである。

(四) 本件派遣職員が仮に、その労働条件等について被控訴人補助参加人と話合いができたとしても、それは、労働組合法上の団体交渉ではなく(労働組合法七条二号に係る不当労働行為の救済申立権は、個人について否定されている。)、結論として控訴人が被控訴人補助参加人と団体交渉できないこととは何ら矛盾することではない。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審の各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  被控訴人補助参加人の業務内容について

証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被控訴人補助参加人は、兵庫県の出資により設立され、その設立目的は兵庫県における新しい地域社会づくりについて、調査及び研究を行うとともに、その実践活動に参画し、もって県民福祉の向上に寄与するものである。

2  その事業は大別して、地域政策研究事業、地域情報サービス事業、二一世紀学会支援、兵庫県シンクタンク等協議会支援の四つであり、地域政策研究事業には、地域政策立案・提言及び自主研究調査(近年のそれとしては、阪神・淡路大震災関連調査[一九九四年]、兵庫県における総合計画と地域開発計画の変遷[一九九五年]・新しい都市環境管理技術に関する研究[一九九六年]、民間団体との共同研究調査(近年のそれとしては、新しい企業の地域貢献活動に関する研究[一九九三年・コープこうべとの共同研究]、兵庫五空港時代における臨空産業に関する研究・さくら銀行との共同研究]、(ママ)商業関連機能とコミユニティに関する研究[一九九五年・コープこうべとの共同研究]、復興過程の新しい観光資源化に関する研究[一九九六年・さくら銀行との共同研究])並びに兵庫県及び県下の市、町からの受託研究(委託機関は、一九九二年は兵庫県及び兵庫県下七市町村、一九九三年は兵庫県・兵庫県下八布町村及び明石海峡大橋関連事業推進連絡協議会、一九九四年は兵庫県・兵庫県下二町・明石海峡大橋関連事業推進連絡協議及び兵庫地域政策研究機構、一九九五年は兵庫県・兵庫県下四市町村及び多紀郡広域行政事務組合、一九九六年は兵庫県、兵庫県下二町及び日中上海・長江―神戸・阪神交易促進委員会)がある。

3  被控訴人補助参加人の平成八年度における事業費支出は一億九四二七万六七一二円で、そのうち地域政策研究事業費は一億七三二四万六〇一八円、民間団体との共同研究費は六〇一万二七八〇円(地域政策研究事業費中約三・四七パーセント)である。

4  本件派遣職員の勤務時間について、被控訴人補助参加人の就業規程第六条に「職員の勤務時間は、一週間に四〇時間とする」、「勤務時間は月曜日から金曜日までの五日間において、一日につき八時間となるように割り振る」と規定し、兵庫県の「職員の勤務時間、休暇等に関する条例」の規程と同等の定めをしている。時間外勤務手当についても、被控訴人補助参加人の職員給与規定第三条には「職員の給与の種類及び額は、兵庫県職員の給与の種類及び額に準ずるものとする。」と規定され、本件派遣職員の給与は時間外勤務手当を含め、兵庫県の「職員の給与等に関する条例」、同「職員の給与に関する規則」及び「職員の給与に関する実施規定」が準用されることになる。

5  兵庫県知事は、兵庫県が一定以上の出資をしている法人(被控訴人補助参加人もこれに該当する。)について、「予算の執行の適正を期するため、収入及び支出の実績若しくは見込について報告を徴し、予算の執行状況を実地について調査し、またはその結果に基づいて必要な措置を講ずべきことを求める」ことができ、また、「調査、試験、研究等の委託を受けた者に対して、その状況を調査し、または報告を徴することができる」とし(地方自治法二二一条一ないし三項)、さらに兵庫県知事は右法人について、「毎事業年度、事業の計画及び決算に関する書類を作成し、これを次の議会に提出しなければならない」としている(同法二四三条の三第二項)。

二  前記争いのない事実(原判決三頁九行目から八頁五行目まで)及び右認定事実を総合すると、被控訴人補助参加人は兵庫県の出資により設立され、法的には兵庫県とは別の独立した財団法人(いわゆる第三セクター)であり、兵庫県の一般行政組織には属していないが、その業務内容は兵庫県を主なる地域とする今後の地域政策研究等の研究業務を中心とするいわゆる兵庫県の地方自治に関するシンクタンクというべきものであり、業務遂行に関して県から直接の指揮、命令を受けることはないものの、業務執行に伴って要する給与及び諸手当のほとんどを兵庫県が負担していること、被控訴人補助参加人の業務執行につき、右一5に認定のとおり兵庫県から指揮・命令を受けることが法律上規定されており、これらを併せ考慮すると、被控訴人補助参加人の業務内容は実質的には兵庫県の業務と同一視できるものであり、兵庫県の将来に向かっての積極的行政部門における最重要項目に関する業務を遂行しているといえるのであって、右業務は公益性が相当強いものであるということができる。

また、勤務時間・時間外勤務手当について、兵庫県の職員と本件派遣職員との間で乖離が生じないように運用されており、被控訴人補助参加人の定める勤務時間は実質的に派遣元公共団体である兵庫県の条例に準拠しているといえるのであって、条例主義の適用が排除されているとはいえない。

(本件派遣職員は、事実上、三年で兵庫県庁に復帰するものであるところ[〈人証略〉]、仮に、右条例主義の適用が実質的に排除されている前提で兵庫県庁に復帰した場合、それまでの勤務時間・時間外勤務手当等職員の勤務条件中、重要な項目について大きな変動が生じる事態が生起することもあり得るといえるのであって、被控訴人補助参加人において条例主義が実質的に排除されていると解することは右観点からも不相当であると考えられる。)

三  被控訴人補助参加人における本件派遣職員の性格について

1  一、二項で認定・説示したとおり、本件派遣職員が被控訴人補助参加人において従事する業務は公益的色彩が強く、その業務内容は実質的には兵庫県の業務と同一視できるものであって、その勤務時間・時間外勤務手当についても実質的に、条例主義の適用が排除されているとまではいえない。

2  したがって、件派遣職員については、被控訴人補助参加人における勤務時間及び時間外勤務手当に関して、地方公務員法五八条の適用があるというべきであり、派遣先である被控訴人補助参加人における労使関係について、労働組合法上の労働者に該当しないと解するのが相当である。

四  控訴人の救済申立適格について

1  地方公務員法上の職員団体は、地方公共団体との交渉を通じてその職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とする団体であり、地方公務員法五二条を根拠とするものであるから、右職員団体が地方公共団体以外の団体の職員の勤務条件について明文の定めもなく、当然に、右団体と団体交渉を行うことができると解することは、地方公務員法及び労働組合法の予定しないところであり、相当であるとはいえない(当審における控訴人の主張(一)(二)は、労働組合法五条、地方公務員法五条一項、五二条、五五条により理由がないことは明らかである。)。

2  また、職員団体に労働組合法上の労働組合性を肯定する必要性があるか否かといった観点から控訴人が主張する混合組合の理論を本件で採用すべきか否かを決すべきで(ママ)ものではない。地方公務員法五二条、五三条、五五条を考慮すると、本件に混合組合の理論を採用することは相当ではないといえる。

五  結論

以上のとおり、控訴人の主張は理由がないから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判所(ママ)長裁判官 見満正治 裁判官 高橋文仲 裁判官 辻本利雄)

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